通貨単位:PYUSD
運用開始:2023年8月7日
開発者:Paxos Trust Company
公式サイト:https://www.paypal.com/us/digital-wallet/manage-money/crypto/pyusd
ホワイトペーパー:https://www.paypalobjects.com/ppdevdocs/PYUSD%20on%20Stellar%20Whitepaper%20V3.pdf
ソースコード:https://github.com/paxosglobal/pyusd-contract
開発言語:Solidity、TypeScript
PayPal USDとは?
概要
PayPal USD(PYUSD)は、米ドルと1:1で交換可能なステーブルコインであり、PayPal公式では「US dollar reserves and cash equivalents」によって裏付けられていると説明されている。
2023年8月7日にPayPalが公開し、当初はEthereum上のERC-20トークンとして展開された。
その後、Venmo対応、Solana対応、Arbitrum対応、さらにStellar展開が進められ、2026年3月時点ではPayPalアカウント上で70市場に提供されている。
開発背景
PYUSDが作られた背景には、従来の送金や決済が抱える遅さ、手数料、営業時間依存、国境をまたぐ資金移動の複雑さがある。
Stellar版ホワイトペーパーでは、既存の決済システムは複数の事業者をまたぐためコストが積み上がりやすく、バッチ処理や営業時間の制約によって着金まで日数がかかり、小口決済も不利になりやすいと説明されている。
PYUSDは、こうした問題に対して、価格変動の大きい一般的な暗号資産ではなく、米ドル連動の安定したトークンを使って、より実用的なデジタル決済手段を作ろうという発想から位置づけられている。
PayPalがこの銘柄を出した理由は、単に暗号資産を増やすためではなく、法定通貨の使いやすさとブロックチェーンの即時性・プログラム可能性をつなぐためである。
2023年の公式発表では、PayPalは「fiat and Web3 をつなぐ橋」を掲げ、消費者、加盟店、開発者が同じ基盤を使えることを重視していた。
つまりPYUSDは、投機よりも、支払い、送金、ウォレット連携、開発基盤としての利用を意識して設計された銘柄だと理解すると整理しやすい。
仕組み
PYUSDの基本構造は、米ドル建ての準備資産に裏付けられたトークンであるという点にある。
PayPal公式とPaxos関連資料では、準備資産は米ドル預金、米国債、同等の現金性資産で構成され、1:1償還を前提とする設計が示されている。
これにより、ビットコインのように価格が大きく揺れやすい暗号資産とは異なり、決済や送金で使いやすい安定性を目指している。
さらに、準備資産の月次レポートや第三者によるアテステーションも公開される仕組みが採られている。
Ethereum上では、PYUSDはERC-20トークンとして公開されている。
ただし単純なERC-20ではなく、公開リポジトリ上では、供給量を管理するSupplyControl、緊急時に送金や承認を停止できるPause機能、特定アドレスの残高凍結や凍結後のwipeを可能にするAsset Protection Role、さらにEIP-3009とEIP-2612による署名ベースの転送やpermitにも対応している。
要するに、決済に必要な標準性と、規制対応・運用管理に必要な管理機能を両立させた実装である。
加えて、GitHubのREADMEでは、PYUSDコントラクトはアップグレード可能なプロキシ構成を採っていることも明示されている。
ブロックチェーン上のアドレスを維持しながら実装を差し替えられる構造であり、運用中に機能改修や保守をしやすくする意図がある。
これは、長期間使われる決済用トークンとしては重要である。
仕様を固定しすぎるより、規制やサービス拡張に合わせて更新できる設計のほうが現実の決済サービスには向いているためである。
Stellar版では、ホワイトペーパー上でPYUSDは「Stellar Asset」として提供され、Stellar Asset Contractを通じてSoroban系プロトコルとも広く互換性を持たせる説明がなされている。
つまり、Ethereum系のスマートコントラクト資産としての側面だけでなく、Stellarの決済志向インフラの上で、送金・法定通貨との出入口・金融サービス連携に寄せた使い方も想定されている。
特徴
・特徴1
PYUSDの最大の特徴は、単なる「ドル連動トークン」ではなく、PayPalという巨大な決済ネットワークの中に組み込まれている点である。
PayPal公式では、消費者は保有・送金・利用ができ、事業者はPayPal checkoutのある場所で受け取りに使え、さらにPayPal外のウォレット、取引所、複数チェーンにも出し入れできると説明している。
多くのステーブルコインがまず取引所やDeFiで広がったのに対し、PYUSDは最初から一般消費者向けウォレット、加盟店決済、送金導線を強く意識している。
この違いはかなり大きい。
二つ目の特徴は、PayPal、Venmo、Xoomをまたぐ実利用の導線が濃いことである。
Venmoでは無料かつ高速な相互送金に使え、Xoomでは海外送金の資金源や精算通貨として使われ、PayPal本体では加盟店支払いやグローバル送金にも接続されている。
つまりPYUSDは、ウォレットの中だけで完結するトークンではなく、送る、受ける、使うという決済の流れにそのまま入り込むよう設計されている。
これは、名前の知名度だけではなく、既存サービスとの結合の強さという意味で独特である。
三つ目の特徴は、マルチチェーン化の進め方である。
2023年時点ではEthereumのERC-20として始まり、2024年にSolana、2025年にArbitrum、現在のStellar資料ではStellarにも展開されている。
PayPal側も、チェーンの選択肢を増やすことで柔軟性とコスト効率を高める方針を明確にしている。
Ethereumは既存のWeb3資産との互換性が強く、Solanaは高速・低コスト、ArbitrumはEthereum互換のL2として拡張性が高く、Stellarは現実の送金・法定通貨出入口・金融ユースケースに強い。
このように、用途ごとに向いたネットワークを増やしている点は、かなり実務的である。
四つ目の特徴は、公開スマートコントラクトの仕様がかなり運用寄りなことである。
EIP-2612 permitやEIP-3009による署名ベースの送金は、ガスレスや代理実行の設計に役立つ。
加えて、供給量制御、緊急停止、凍結、wipe、アップグレード可能プロキシといった機能は、純粋な分散性だけを追うというより、規制対応・不正対策・サービス継続性を重視した実装だといえる。
初心者向けにいえば、PYUSDは「完全放任のコイン」ではなく、「現実の決済サービスとして管理可能なコイン」である。
そこが長所でもあり、思想面では好き嫌いが分かれるところでもある。
五つ目の特徴として、PayPal公式ページでは現在、PYUSD保有に対する報酬プログラムも用意されている。
2025年4月の発表では年率3.7%で始まり、現在のPayPal公式ページでは年率4%の案内になっている。
これは価格上昇を狙う機能ではなく、PayPal内でPYUSDを保有・利用する動機づけとして設計されている点が重要である。
つまり、単に「持つためのトークン」ではなく、「PayPal内で循環して使ってもらうためのトークン」なのである。
現実事例
現実事例としてまず分かりやすいのは、PayPal加盟店での支払い導線である。
PayPal公式では、米国の加盟店はPayPal checkoutが使える場所でPYUSDを受け取れるとしている。
また、VenmoではPYUSDを購入し、PayPal・Venmo・外部ウォレットへ送る流れが整えられているため、一般消費者のウォレット間送金にもすでに使われている。
次に重要なのが、Xoomを使った国際送金である。
2024年4月には、Xoomで海外の友人や家族への送金資金としてPYUSDを使えるようになり、2024年11月にはYellow CardやCebuana Lhuillierといった提携先が、Xoom経由の越境送金精算にPYUSDを使う方針が公表された。
ここでは、ステーブルコインが単なる売買対象ではなく、送金インフラの裏側で働く決済部品として使われている。
これはかなり実用色の強い事例である。
さらに2025年には、Coinbaseとの連携強化により、Coinbase上での手数料無料購入や1:1償還、DeFi・オンチェーン領域での新しいユースケース開拓も打ち出された。
つまりPYUSDは、PayPal圏内だけの閉じたトークンではなく、外部の暗号資産基盤とも接続を広げつつある。
まとめるなら、PYUSDは「PayPalの中で使えるコイン」から、「PayPal外でも使える決済用デジタルドル」へと少しずつ広がっている段階にある。
歴史
PYUSDの歴史は、まず2023年のEthereum上での公開から始まる。
この時点でPayPalは、PYUSDをWeb3と法定通貨の橋渡し役として位置づけていた。
次に2023年9月にはVenmoへ広がり、PayPalとVenmoの相互送金基盤として色が濃くなる。
2024年にはXoomの越境送金とSolana対応が加わり、単なる保有資産ではなく、送金・低コスト決済の実務用途へ踏み込んだ。
2025年には報酬プログラム、Coinbase連携、Stellar計画、Arbitrum展開が続き、消費者向け・開発者向けの両面でユースケースが拡張された。
2026年3月にはPayPalアカウント上で70市場に提供され、ブランド内のグローバル実装が一段進んだと見てよい。
-
2023年8月7日
PayPalがPayPal USD(PYUSD)を公開。Ethereum上のERC-20トークンとして提供開始。
-
2023年9月20日
PYUSDがVenmoに対応。PayPal・Venmo・外部ウォレット間の送受信導線が拡大。
-
2024年4月4日
Xoomで海外送金の資金源としてPYUSDを使えるようにすると発表。
-
2024年5月29日
PYUSDがSolanaブロックチェーンに対応。より高速・低コストな利用経路が追加。
-
2024年11月19日
Xoomの送金精算でPYUSDを活用する方針を発表。越境送金インフラでの実利用が前進。
-
2025年4月23日
PayPalとVenmoでPYUSD保有に対する報酬プログラムを発表。
-
2025年4月24日
Coinbaseとの連携強化を発表。手数料無料購入、1:1償還、DeFi活用の検討を公表。
-
2025年6月11日
PayPalがStellarでのPYUSD展開計画を公表。
-
2025年7月17日
PYUSDがArbitrumに展開。Ethereum互換のL2での利用が可能に。
-
2026年3月17日
PayPalアカウント上でPYUSDを70市場へ展開すると発表。
参考文献
- PayPal USD (PYUSD) Stablecoin | PayPal
- PayPal Launches U.S. Dollar Stablecoin
- PayPal USD (PYUSD) is now available on Venmo
- PayPal USD Stablecoin Now Available on Solana Blockchain
- PayPal PYUSD To Bring Speed and Reduced Costs to Cross-Border Payments with Xoom
- Buy. Hold. Earn Rewards. PayPal Unlocks Rewards for Holding PayPal USD
- PayPal and Coinbase Expand Partnership to Drive Innovation of Stablecoin-based Solutions
- PayPal USD (PYUSD) Plans to Use Stellar for New Use Cases
- PayPal USD Expands to Arbitrum
- PayPal Brings PayPal USD to Users Across 70 Markets
- PYUSD on Stellar Whitepaper
- paxosglobal/pyusd-contract
- Paxos | Mint and Redeem Paxos-Issued Stablecoins
- PYUSD Transparency Reports